お父さん、これ面白いよ、読んでみな。」息子が1冊の本を持ってきた。
「ハリーポッター」
「どうせ読むなら、この本を読みなさい。」と薦めたのが「大相撲ぶっちゃけ話(曙太郎)」
息子は、相撲に全く興味を示さない。以前、両国のちゃんこ屋さんに行った時、そこにいたおすもうさんに、「僕、相撲やってみない?」と言ってもらったのが、悪かったのかも知れない。
ある日、こんなクイズを出してみた。「お父さんの好きなスポーツは? ①剣道 ②野球 ③すもう これは難問だと思ったが、あっさり正解した。なんでわかったのか尋ねると、「簡単だよ。お父さんがスポーツのことを1000話したなら、999がすもうで、1が野球で剣道は0だよ。」
これには驚いた。自分的には拮抗してると思ったのだが、その通りかもしれない。自分の事はわからないものである。
「大相撲ぶっちゃけ話(曙太郎)」に戻るが、兎に角、面白い。人が良過ぎるのではと心配になる。
7000万円盗難事件。曙さんは7000万円盗まれている。相撲界最高の被害額だという。相撲部屋に金庫を置き、お金や貴重品を入れていたところ、金庫ごと盗まれてたのだ。後日犯人が捕まる。なんと部屋の若い力士。彼は他の人からも盗みを働き、総額3億円を盗み、京都の祇園の舞妓に全額貢いだと。腕時計だけが戻ってきただけで、お金は帰ってこなかった。
私が驚いたのは、曙さんは時計が戻ったことを喜んでいる。また犯人は力士として有望だったらしく、恨むどころか、本当にもったいない男だ、と残念がっている。7000万円盗まれてもけろっとしている。こんな人は瑣末なことで不機嫌になったりしないのだろう。
私が目指したい境地だが無理な気がする。若貴にすもうで負けると悔しがる。この感性が実にいい。
もう1話紹介する。
曙さんが小結に昇進した場所後、付き人と温泉に出かけた。旅館の玄関先に、坊主頭の高校生がいて、落ち込んで涙ぐんでいた。どうしたのか聞いてみたところ、「高校野球の試合で自分がバントに失敗してチームが負けてしまったのです。」と言う。そこで横綱は「相撲界には、負けて覚えるすもうかな、という格言がある。勝ちっぱなしの人生なんて存在しないよ。」と話したところ、少年の顔が明るくなって、丁寧に礼を言って帰っていったという。
5年後、シーズン安打新記録を樹立したイチローが、相撲見物に来た際、駐車場でばったり会った。曙さんが、「はじめまして。」とあいさつすると、「初めてではないのです。あの時の高校生はぼくだったのです。」と打ち明けられ、「本当にありがとうございました。」と礼を言われたという。
あまりにも知られていない、エピソードである。私は、曙さんが現役時代には、若貴を応援していた。マスコミが作った単純な二元論に、乗ってしまっていた自分が恥ずかしい。曙が悪役、若貴がヒーロー、曙が黒船、若貴が日本の侍、こんな調子だった。マスコミは今でも、好意的にみてない気がする。彼は相撲界に残らず、プロレスラーになったりした。いい面に気付けなかったのは、もったいないことだ。
日本人の若者がアメリカに行き、アメリカ人に「あなた日本人ですか、相撲の話しをしてください。」などと言われた時、「僕、相撲はあまり知らないのです。」などど答えたなら「この人、本当に日本人?」と疑われ、AKBを知らない日本人より怪しまれるだろう。
そんな時、このエピソードを披露したなら、喜ばれることうけあいだ。アメリカ人青年が文字通り裸一貫で日本ですもうのチャンピオンになり、誰もが知るメジャーリーガーのイチローに影響を与えていた。「あのときの言葉があったから今の自分があるのです」とまで言わせている。
余談だが、私がこのブログで本のことを書く場合、ぜひとも、サシでお酒を飲ませていただきお話させていただきたいと思う方、そんな方の本のことを書く。といっても先方は私に微塵も関心を持たないだろうが。そこがいいのである。